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さようならバックハウスのベーゼンドルファー 佐藤卓史演奏会 報告

2月26日。「さようならバックハウスのベーゼンドルファー 第4弾 佐藤卓史演奏会」が終了しました。その様子をご報告します。 雲一つなく空の青さが清々しい土曜の午後。 春らしい陽気の中、集われた方々のお召し物からも春の訪れを感じる。 本日の奏者、佐藤卓史さんはシューベルトに造詣が深く、シューベルトの作品の演奏や研究をライフワークとされていると伺っており、一度ぜひ聴いてみたいと思っていたピアニストの一人。 今回は、Allシューベルトのプログラムだ。




♪楽興の時D780 作品94より

 第1曲…上質な音色、と表現したくなる音がホールに広がる。音の重なりがとてもふくよか。程よい湿度を感じさせる音色も、シューベルトらしさなのかもしれない。

 第2曲…コラールのような冒頭。声の重なりを感じさせる豊かな響き。一瞬の激しさからの熱の冷め方もとても美しい。まるで教会の中で聴いているかのような響かせ方が、大変心地よかった。

 第3曲…聞き馴染みのある曲だが、今まで聴いてきたものと少し違った印象。伴奏の心地良い流れの上に、スッキリとした装飾音が曲を印象づける。これがシューベルトが表現したかったものなのではないかと、ふと感じた。 曲間のお話の中で、「こういう音色のピアノは他に弾いたことがなかったので、とても印象に残っています」と、このピアノに対する思いを語ってくださった佐藤さん。 リハーサルでも長い時間、ピアノとの久々の会話を楽しんでいらした。



♪2つのドイツ舞曲 D974

先の曲と変わり、軽やかな音色で曲が始まった。舞曲らしい表現が楽しさを感じさせ、くるくると回りながらドレスの裾がふわりと広がる様が目に浮かんだ。

♪ソナタ嬰へ短調 D571 1楽章 佐藤さんによると、シューベルトはソナタを24曲ほど書いたものの完成したのは10曲程度。この作品も未完なため、佐藤さんが補筆した版を演奏された。 嬰へ短調という珍しい調性だというが、その独特の雰囲気、押しては引く波のようなダイナミクスが気持ち良いと感じる一曲だった。 佐藤さんの補筆であることを忘れていたほど自然に曲が流れていき、シューベルトらしさを感じたまま曲が終わっていった。

♪4つの即興曲D899 作品90より  第3曲…清らかな川の流れ、水面にキラキラと反射する光。川は緑豊かな場所から街を過ぎていく。流れは時に荒く、時に穏やか…そんな情景が思い浮かぶ。 少し前まで冬季五輪に熱中していたこともあり、この曲で舞うフィギュアスケートが見てみたいなぁと思った。  第4曲…冒頭の連符がとても印象的。旋律と併走する連符は1つ1つが個性を持ち、シンプルな旋律の周りを飛び回って曲に広がりを持たせていた。 このあたりになると多くの方がとてもリラックスし、うっとりとしながら聴いている姿が見られ、私自身も佐藤さんの奏でるシューベルトに癒やしを感じた。 ♪ギャロップと8つのエコセーズ 佐藤さんの演奏は踊りの曲になるとクリアで軽やかな音色に変わり、このピアノはこんなかわいらしい音も出るのか!と、また新たな発見をした一曲。緩急やフレーズ間の溜めがとても心地よく、思わず踊りだしたくなった。 最後の曲を前に、バックハウス氏についても佐藤さんがお話してくださった。 強靭なテクニックの持ち、ベートーヴェン、ブラームスといったドイツ作品の演奏で右に出る者はいないと言われた巨匠。そのバックハウス氏が生涯最後に演奏した曲は、なんとシューベルトの曲。それが本日最後の曲。

♪4つの即興曲D935 作品142より

 第2曲…気品を感じるサウンドで曲が始まる。奏でられたその音楽と、時に天を仰ぎながら弾く姿に、バックハウス氏の愛したこのピアノを通して氏へ敬意を表しているようにも感じた。

 第4曲…本日のプログラムの中で、一番激しい動きのある曲。目まぐるしく姿を変えるフレーズにも、一貫して気品が感じられた。 ほとんどの曲で、最後の1音の響きが自然に消えゆくまで余韻をじっくりと味わう佐藤さんのスタイルは、とても印象的だった。 アンコールでは、バックハウスのピアノなのでと、ブラームスを演奏してくださった。深いところを流れるかのような音色が巧みに使われ、シューベルトとの対比を楽しむことができた。 曲に関する逸話と共に、演奏される機会の少ない隠れた名曲をたくさん聴くことができた演奏会だった。シューベルトをより魅力的に感じ、もっともっといろいろな作品に触れたくなった。




その唯一無二な響きで聴衆のみならず奏者をも魅了する、バックハウスのベーゼンドルファーを堪能できるコンサート。 次週、3/5の佐藤元洋さんで最終回か…と残念に思っていたみなさん、朗報です! 諸般の事情により、ピアノとのお別れの日が少し伸びたそうで、4月にもう1回コンサートを開きます!と発表がありました。 ここ数年いろいろな事があり、日々の暮らしの中で誰しも目に見えないお疲れが溜まっていることと思います。 こんな時だからこそ、音楽や芸術の力でココロに癒やしと栄養を。 対策を徹底し、開催しております。 この機会をお聞き逃しなく。 ご来場が難しい方、どうぞ温かいまなざしで応援をお願いいたします。

(文:M)


10Manako Sakai、風間陽子、他8人

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