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さようならバックハウスのベーゼンドルファー 佐藤元洋演奏会 報告

3月5日。「さようならバックハウスのベーゼンドルファー 第5弾 佐藤元洋演奏会」が終了しました。その様子をご報告します。



早咲きの桜が咲き始めた掛川。 暖かさも相まって、心躍られた方々が早くから集まり開演の時を楽しみに待たれていた。

リハーサルの途中で作業のためホールにお邪魔すると、区切りのいい所でスッと立ち上がり、今日はありがとうございます。よろしくお願いします。と爽やかな笑顔で挨拶してくださった佐藤元洋さん。 第一印象、好青年です。

今回は、異なる4人の作曲家を楽しむことができるプログラム。 元洋さんもバックハウスのベーゼンをこよなく愛されていて「このピアノに合った作品を弾いてお別れをしたいなと思って…」と組まれた構成だという。



♪モーツァルト:ピアノソナタ第17番  瑞々しい音色から始まった1楽章。 モーツァルト独特のチョットしたかわいらしさが随所に見え隠れする。春の訪れを祝うような明るさと軽やかさがあり、元洋さんの爽やかなお人柄をも感じさせる演奏だった。  続く2楽章は、1音1音がクリアに品よく並ぶ。モーツァルトの、旋律・内声ともに歌心のある美しさをしっかりと楽しめた。 このピアノで聴くモーツァルトは、何ものにも代え難い癒やしの響きで心をふっと軽くしてくれた。『モーツァルトの曲には癒やしの効果がある』と耳にするが、まさにそれを体感することができた。  終楽章は、軽やかに飛び回る音の粒がとても心地良かった。ピアノから出てくる音たちも、なんだか嬉しそうに感じた。



♪ドビュッシー:前奏曲集第2巻より 1910年の作品。「このピアノより後に作られた曲を演奏することも、趣があると思う」と選曲されたそうだ。

 第4曲「妖精は良い踊り子」 モーツァルトのすっきりとした印象とは180°変わり、ドビュッシーらしい深くうごめくような和音から始まった。徐々に音が気持ちよく広がっていく。その気持ちよさからも元洋さんがこのピアノを愛し、理解していることが伝わってきた。

 第5曲「ヒースの茂る荒野」 夢見心地。なんて気持ちがいいのだろう…次第に曲の世界にぐいぐいと惹き込まれる。曲が少し力強さを含みだすと、夢は覚め、ヒースの茂る大地とその上をサーッと吹く風を感じた。

 第6曲「風変わりなラヴィーヌ将軍」 異国情緒を感じる曲。低音の輪郭をハッキリとさせていたことで、リズムの面白さを感じやすく、コミカルさが上手く表現されていた。この曲の題名…『風変わりなラヴィーヌ将軍』か。なるほど、フフフ。 今日の演奏を聴かれた皆さんは、どんな姿の将軍を想像されただろうか。ぜひ伺ってみたいものだ。

 

曲によって浮かぶものが異なり楽しいこの曲集。「(このピアノで弾くと)曲によっていろんな音を出してくれるから、弾きながら色んなインスピレーションが浮かんでくる」と楽しそうに話された元洋さん。 はい、こちらにもそれはしっかりと伝わり、とても楽しませていただきました(^^)



♪ショパン:バラード第1番  この日1番深い響きを放って始まった。今日の元洋さんの演奏は、作曲家ごとの違いを見事に弾き分けて、1音目からそれぞれの作曲家の世界へと引き込んでくれる。  明るく転換していってもどこかに影を感じるショパンらしい表現は秀逸。普段から耳にすることの多いこの曲だが、曲全体に渡って、低音の響きに特徴のあるこのピアノだからこそ出せる深みのある低音を存分に味わえる曲作りがされていて、とても嬉しかった。 劇的な展開は、独特な低音の力でよりドラマチックに表現され、静まった時との対比が素晴らしかった。


♪ブラームス:ピアノソナタ第1番  若さあふれる冒頭部。曲に流れが出始めると、繊細さが現れてきた。 この曲はハ長調。ハ長調と聞いて思い浮かぶ響きのイメージと、この曲のハ長調は少し違った。ブラームスの曲には、なんとも言葉にし難い独特の響きがあると感じた。ブラームス独特のハ長調を元洋さんがしっかりと理解され見事に表現していたから、そう感じたのだと思う。  別の楽章は、時の流れを忘れたかのような曲。モーツァルトの作品が癒やしを与えてくれる曲だとするならば、ブラームスのこの曲は言葉では上手く表せないものを映し出し、音に変えて昇華することで心を軽くしてくれる。そんなことを思いながらふと見上げると、天井に集まった音たちが私を包み込み、ありのままを受け入れてくれてるような感じがした。これが、ブラームスの癒やしなのかもしれない。

「このピアノとお別れするのが本当に寂しい」と話す元洋さん。



アンコールとして弾いてくださったのは、

♪バッハ:イタリアンコンチェルトより第1楽章。  音の処理も、バロックらしく端正に。芳醇な響きを持つこのピアノでバッハを弾くと、より多くの色彩や艶が現れて華やかな印象になった。このバッハもとても素敵だ。

5人の作曲家の異なる音楽の特長を見事に音の違いで表現し、それぞれの曲の持つ世界を十分に堪能することができる、なんとも贅沢なコンサートだった。


このピアノに対する愛情がいろいろな形で伝わり、いつまでもここで元洋さんとピアノの対話を聴いていたくなった。こちらまでこのピアノと元洋さんの別れをとても寂しく感じた。

春は出逢いと別れの季節。 今回のさようならコンサートシリーズで、多くの素晴らしいピアニストを知り、また、名曲の数々に出逢うこともできた。 まもなく掛川に別れを告げる予定の、バックハウスのベーゼン。 ピアノを聴く楽しさを教えてくれたこのピアノが、新天地でも多くの人に愛されることを、春風を感じながら静かに祈った。




同時開催で、桑嶋よしみ作品展を2月19日~3月5日まで催した。

蓮の花をテーマにした大型の作品はとても迫力があり、ピアニストや来場者の方々にインスピレーションを与え、文化の香り高い空間になった。

ご協力いただいた桑嶋よしみさん、ありがとうございました。



 

バックハウスのベーゼンドルファーとの有意義な時間を過ごせる機会も、あと1回となった。 最終回は、4/16(土)村上将規さんのピアノコンサート。私は初めて聴くピアニスト。新たな才能との出逢う4月。とても楽しみだ。               (文・M) 

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